所有権や共有持分を移転する所有権移転登記等手続(名義変更手続)を行うには、その原因となる法律行為が存在します。
馴染みのあるところですと、「相続」、「贈与」、「売買」などでしょうか。その他の非典型契約なども含まれます。
上記の法律行為を設定する段階において、当事者の頭を悩ませるのが不動産の税金に関する問題です。
法務局は、所有権移転登記等の登記が申請された場合には、その申請内容を税務署に通知します。
つまり、誰がどのような登記をしたかは税務署に把握される状態となっているため、上記法律行為を設定するについては、不動産の税金についての知識が必要となってきます。
本ブログの「不動産登記と税金」のシリーズでは、具体的事例を取り上げ、その注意点を解説していきます。
マイホームの購入と所有名義
【事例】
(1)夫Aと妻Bは、今般、マイホームとして売主Cより土地付住宅(2000万円)(本件不動産)を購入することとした。
(2)ABCは、CからABが持分各2分の1の割合(共有名義)にて本件不動産を購入する旨の売買契約を締結した。
(3)上記購入資金の支払いは、Aが甲銀行より借り入れる住宅ローンでその全額を賄うこととした。
(4)Aは、Cに対し、本件不動産の売買代金全額を支払った。
(5)本件不動産について、A持分2分の1、B持分2分の1とする所有権移転登記がなされた。
(6)本件不動産について、Aを債務者とする甲銀行の抵当権設定登記がなされた。
さて、上記事例には、何か問題があるのでしょうか。
ABは夫婦であり、その共有財産が存在することが通常であることを考えれば、一見、Bに持分を持たせても問題ないと考えることもできるかもしれません。
しかし、税務署は、Aが本件不動産の持分2分の1の購入代金相当額をBに贈与したものとみなし、他に免税・減税等に該当する事由のない限り,Bに対して贈与税の課税を行います。
Bにおいて贈与税の支払いは大きな負担となり、また、税務署が贈与税の支払いを免除する代わりに登記をA単有名義に更正する旨の条件を提示してくれたとしても(全ての税務署がこのような取扱いを行ってくれるか否かは不明です。具体的事案により異なるでしょう。)、登記をやり直す手続費用等の負担が生じ、想定外の出費が発生することとなるでしょう。
このように、不動産の名義変更においては、当事者間の事情ではなく、所有者及びローンの債務者等の「名義」を重視した課税が行われます。
上記の事例は、ABにおいて上記の贈与税課税の危険を把握した上で、本件不動産をAが単独で買い受ける旨の売買契約を締結するか、Bからも出資してもらい、ABの出資比率に応じた売買契約(及び抵当権設定契約)を行うなど、登記原因となる法律行為を十分に検討した上でこれに基づく登記を申請し、予期せぬ贈与税課税を回避しておくべきであった事案です。
一生のうち、そう何度とないマイホームの取得。辛い思い出にしないためにも、上記の点には気をつけて購入計画を立てるようにして下さいね。